傾く人生 歌舞伎道
  • 【特別対談】市川海老蔵×森山未來~次なるチャレンジへ~
    『オイディプス』開幕!

    ■傾く人生 歌舞伎道 銀座・成田屋のトピックス

    市川海老蔵さんが、10年ぶりに現代劇に挑戦。数あるギリシャ悲劇の中でも傑作と謳われる『オイディプス王』を原作とする舞台で、運命に翻弄される王を、どう演じるのか。今回、初共演となる森山未來さんとの対談を通して、新しい『オイディプス』を探ります。アンバサダーを務める「ルイ・ヴィトン」の着こなしもお楽しみに。

    「ギリシャ悲劇の傑作に挑戦します」

    市川海老蔵(いちかわ・えびぞう)/1977年、東京都生まれ。十二代目市川團十郎の長男として生まれ、85年に七代目市川新之助を襲名。2004年に十一代目市川海老蔵を襲名。日本の伝統芸能を次世代に伝えるべく、「ABKAI」「古典への誘い」などの自主公演に力を入れると同時に、海外での活動も多い。来年5月、十三代目市川團十郎白猿を襲名予定。20年の東京五輪・パラリンピック組織委員会に助言を行う「文化・教育委員会」委員も務める。

    国やジャンルを超えた才能が集結し、新しい『オイディプス』に挑む

    父を殺し、母を娶(めと)るであろう——

    あまりにも残酷で理不尽な予言と運命に翻弄される王の物語。戯曲『オイディプス王』がソポクレスによって書かれたのは、紀元前5世紀のこと。

    以来、気が遠くなるほどの長きにわたって、このギリシャ悲劇の傑作は連綿と上演されてきました。そして2019年、日本にまったく新しい悲劇『オイディプス』が誕生します。


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    【オイディプス役 市川海老蔵】
    「自分のやりたいことに正直、それが森山さんのイメージかな」—海老蔵さん

    オイディプスを演じるのは、歌舞伎俳優、市川海老蔵さん。オイディプスに救いを請う市民たちのリーダーを、森山未來さんが演じます。

    翻案と演出を手がけるのは、劇作家、俳優としても活躍するマシュー・ダンスター。英国演劇界を代表する実力派が、同じくイギリスで注目を集める気鋭のクリエイターたちを束ね、日本での初演出に挑みます。



    【リーダー役 森山未來】
    「はい、最近はどんどんそんな感じになってきました(笑)」—森山さん

    さて、初共演のお2人。伝統を守りかつ革新を恐れず、歌舞伎の未来を見据えて獅子奮迅の活躍を見せる海老蔵さんと、俳優としてだけでなく、ダンサーとしての存在感にも磨きがかかる森山さん。

    フィールドは違えど、同時代を生きる表現者としてお互いの存在を認め合うお2人の才能や個性が、ギリシャ悲劇の舞台でどんなふうに躍動するのでしょう。

    時代設定は、なんと未来。そして、歌舞伎、ダンス、演劇の世界から集結した多彩なキャスト、と森山さんも「未知も未知」と唸ることしきり。これまで誰も見たことのない『オイディプス』が幕を開けます。

    ギリシャ悲劇と歌舞伎に相通ずるものとは

    ——稽古開始を約1か月後に控えた2019年8月某日。お2人の顔合わせが実現しました。ともに初挑戦となるギリシャ悲劇が原作の舞台。「初めまして」の挨拶を皮切りに、『オイディプス』に臨む心境を語り合っていただきました。

    「私は歌舞伎バカ。すべて歌舞伎につなげたい」—海老蔵さん

    市川海老蔵さん(以下、海老蔵):『オイディプス』というギリシャ悲劇の中でも特にすばらしい作品の舞台に立たせていただくことが、まずとても楽しみです。そもそも物語は、私が演じるオイディプスの成長過程や父親を殺してしまったこと……すべてを割愛して大きなクエスチョンから始まるわけです。

    ところが、答えはもうみんなが知っている。そこは歌舞伎も同じですけれども、ここまで手の込んだ構成をもってきっちりと描かれた作品は、歌舞伎にはあるようでない。もっと大ざっぱなんですよ。そういう意味で、ソポクレスはやはりすごいと思いますね。

    森山未來さん(以下、森山):聞いたところによると、イギリスの舞台人たちって、ギリシャ悲劇をあまり好んでやらないらしいんです。それは、シェイクスピアの文化があるからというのもあるだろうけれど、どうやらもっと論理的に話が構築されていなければいけないと考えるらしくて。

    海老蔵さんがおっしゃるように、話がどかんとわかりすぎている、つまり予定調和でありすぎるところが敬遠されるのか。でもそれは、神話だったり、もしかしたら歌舞伎の醍醐味にも通じるところだったりするのかもしれないですね。今回、イギリス人であるマシュー・ダンスターが、古代ギリシャの物語を日本の伝統芸能である歌舞伎とどうかみ合わせるのか、非常に楽しみです。

    海老蔵:私も、たぶん森山さんも、マシューさんを信じきって現場に入るわけですよね。ただ脚本ということでいえば、彼がイメージしているものが、本当にそのまま日本語で表現されて我々の手もとに届いているのか、そこだけはきちんと念を押して聞きたいですね。

    森山:そうですよね。たとえばリーダーである僕がオイディプスに語りかけるときも、あるいは逆の場合も、英語だとYou、そこに上下関係はない。だけど日本語だと、「おまえ」「あなた」「そなた」……どんな言葉を選ぶかで関係ができ上がってしまいます。br>

    海老蔵:そういう人との距離感をはじめとして、伝えたい本質が英語から違和感のない日本語にちゃんと変換されているのか、そこは気になります。

    森山:台本の精査も必要だろうし、現場でどういうふうに対話を重ねていくかもとても大事かな、と思います。

    海老蔵:歌舞伎だと稽古期間が短くていつも4日間くらいで仕上げるので、そういう過程がつい抜けてしまいがちですが、おっしゃるようにディスカッションは絶対必要でしょうね。

    多彩な才能が交錯する未知なる舞台への期待

    「この座組みは未知も未知。まったく想像がつきません」—森山さん

    森山:それにしても、この座組みは未知も未知! いわゆるコロスという市民の集団に、歌舞伎俳優さんもいれば演劇のかた、芝居をやったことのないコンテンポラリーダンサーもいる。あまりに十人十色すぎて、その人たちが空間をどう動いていくのか、今のところ、まったく想像できないです。

    海老蔵:今回の時代設定が未来だからこそ、可能な座組みなんだと思います。あ、未來さんだからじゃないですよ(笑)。過去も現代も飛び越えて未来にも通用する。マシューさんは『オイディプス』の普遍性を伝えたいのでは。

    森山:普遍性だけで作品をつくり上げていく……いやあ、本当にどんな感じになるんでしょう。

    ——歌舞伎界にあって、その挑戦する姿勢が常に耳目を集める海老蔵さん。片や俳優としてだけでなくダンサーとしても活躍めざましい森山さんは、国境を超えたジャンルレスな活動が比類のない存在感を生み出しています。

    海老蔵:私は歌舞伎バカなんでね。これをやりながらも、どう歌舞伎にしようかって考えると思うんです。もちろん一生懸命演じさせていただきます。でも頭の隅で、5年後とかに『オイディプス』という歌舞伎をつくりたいって思うだろうな。

    たとえば森山さんのような現代に生きる才能のあるかたとお会いしたら、どういう人物なのか、見て吸収して歌舞伎にもっていきたい。私が専門じゃない映像や現代劇に挑戦するのは、すべて歌舞伎に還元したいからだと思います。

    森山:僕の場合、舞台やお芝居という言葉を発する部分から身体に落とし込まれることもあるし、ダンスという身体表現を続けることで言葉に落とし込まれる部分もあると思います。ただ、もうあまりどれがどれって考えながらはやっていないですね。

    海老蔵:森山さんは私のイメージだと、演じるうえでどこか粘土をこねる職人みたいに作品をつくっていく印象がありますね。それをあまりやっている人がいないから、まず見てみたい。

    森山:ああ、うれしいですね。たとえばダンスパフォーマンスだと何もないところから始まるので、それこそ粘土をこねるようにして何ができたかな、という表現になることがままあります。お芝居にはまずストーリーという枠組みがあって、そこからどうはみ出すかとか、どう突破していくかということだと思うんですが、1人じゃないので。

    それでもひたすら粘土をこねて僕だけではわかり得ないところまで広がっていく瞬間が楽しいなと思います。この『オイディプス』は、本来ものすごいしっかりとした屋台骨があるにもかかわらず、何だか枠自体にすでに粘土感があるというか(笑)、そういう匂いがします。

    ──海老蔵さんは、来年2020年5月には十三代目市川團十郎白猿を襲名します。br>

    海老蔵:今、私がオイディプスをやるというのも、ご縁が重なってのことだろうけれど、考えてみれば海老蔵のうちにやれることの1つなのかもしれませんね。まあ、團十郎になっても人が変わるわけじゃない。やることは変わりません。

    市川海老蔵(いちかわ・えびぞう)さん
    『オイディプス』に続き、2019年11月も「市川海老蔵 第五回自主公演 ABKAI 2019~第1章FINAL~『SANEMORI』」でシアターコクーンに登場(2019年11月5日~25日)。伝統の継承と新時代の歌舞伎の創造をテーマに開催してきたABKAIも、市川海老蔵としては今回が最後。2020年5月に13代目市川團十郎白猿を襲名する。

    森山未來(もりやま・みらい)さん
    NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』 に出演中。 辻本知彦とのユニット「きゅうかくうしお」の新作『素晴らしい偶然をちらして』を、横浜赤レンガ倉庫1号館で公演予定(11月22日〜12月1日)。映画『“隠れビッチ”やってました。』(2019年冬公開予定)に出演、『オルジャスの白い馬』(2020年1月18日公開予定)に主演。
    URL:miraimoriyama.com

    Bunkamura30周年記念
    シアターコクーン・オンレパートリー2019
    DISCOVER WORLD THEATRE vol.7『オイディプス』
    歌舞伎、現代劇、ダンスの各分野から個性豊かな才能が集結して生まれる新しい『オイディプス』。ギリシャ悲劇の最高傑作を、英国演劇界の実力派マシュー・ダンスターが翻案。本作が日本での初演出となる。

    Bunkamura シアターコクーン
    〜2019年10月27日
    Bunkamuraチケットセンター:03(3477)9999
    公演の詳細、チケット情報はこちら>>


    翻案・演出/マシュー・ダンスター
    翻訳/木内宏昌
    美術・衣裳/ジョン・ボウサー
    振付/シャーロット・ブルーム
    出演/市川海老蔵、黒木 瞳、高橋和也、中村京蔵、谷村美月、笈田ヨシ、森山未來ほか

    表示価格はすべて税抜きです。

    撮影/浅井佳代子 スタイリング/大久保篤志(海老蔵さん)、小沢 宏(森山さん) ヘア&メイク/松本 順〈辻事務所〉(海老蔵さん)、須賀元子〈星野事務所〉(森山さん) 取材・文/河合映江

    『家庭画報』2019年11月号掲載。
    この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。


    引用:家庭画報.com
    https://www.kateigaho.com/love/60310/

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