傾く人生 歌舞伎道
  • ポルシェ911カレラRS(964RS)は、もはや投機対象のクルマとなってしまったのか?

    ■傾く人生 歌舞伎道 銀座・成田屋のトピックス

    1991年のジュネーブモーターショーでヴェールを抜いだ、ポルシェ911カレラRS(以下、964RS)。カレラRS2.7から約20年、SC-RSが誕生してから約10年後。RSの名を冠したモデルが発売されたことになります。

    ルビーストーンレッドのボディカラーを纏い、ボディと同系色の表皮があしらわれたレカロ製フルバケットシートが奢られ、シンプルな仕立てながらもどこか華やかさが感じられる仕立て。リアエンブレムの「Carerra RS」のエンブレムに心ときめいたことでしょう。

    964RSの正規輸入車の価格

    ・ベーシックバージョン:13,348,000円

    ・ツーリングバージョン:13,848,000円

    964RSの生産台数は2398台(カレラカップカーを含むか否か・・・等々で諸説ある模様)。1992年モデルとしておよそ1割が日本市場に割り当てられたといわれています。日本に上陸した964RSの大多数はエアコン、パワステ、パワーウインドウ、オーディオなどの快適装備を一切省いたベーシックバージョン。アンダーボディの防錆処理を行っていないため、ボディの錆保証は3年(この当時は10年が通常)となり、ナンバーを装着する部分のリアバンパーも軽量化され、まさにロードゴーイングカーの名に恥じない仕立てといえます。964RSで採用されたリアバンパーは後に964ターボ3.6にも採用され、ドレスアップの定番ともなりました。

    964カレラ2の250ps、964RSの260ps

    964カレラ2と964RSの出力差はわずか10ps。コンピューターチューンによるパワーアップがなされています。しかし、964RSにはピストン&シリンダーの公差が少ない「当たりのエンジン」が選ばれているといわれ、レカロ製フルバケットシートによる2シーター化、薄いガラス(964カレラ2は4.7mm厚、RSは3mm厚)、17インチカップデザインのマグネシウムホイールが装着される(964カレラ2/カレラ4は16インチが標準。17インチアルミホイールはオプション)など、軽さが大きな魅力となっています。

    *964カレラ2と964RSの最高出力の違い

    ・964カレラ2:250ps/6100rpm

    ・964カレラRS:260ps/6100rpm

    *964カレラ2と964RSの車重の違い

    ・964カレラ2:1320kg

    ・964カレラRS:1250kg(ベーシックモデル)

    ベーシックバージョンは超硬派!ツーリングバージョンは超レア!

    日本仕様の964RSベーシックバージョンは、オプションで選べるのはメタリックカラーのみ。オーダーする時点ではエアコンを取り付けることすらできません。それほどスパルタンな仕立てだったのです。その一方で、ポルシェ959(コンフォートバージョン)を想起させるグラデーション柄のシート、エアコン、オーディオなどの快適装備が標準装備されていたツーリングバージョンは、オプションでCDチェンジャーやシートヒーターを選ぶことができました。964RSツーリングバージョンは世界的に見てもレアな存在で、76台しか生産されていないのです。

    カレラ2よりも40mm車高が落とされた964RSは、見た目は「シャコタンの964」ですが、後の993RS(日本仕様)のようにエアロパーツで武装しているわけではないため、その違いはマニアでないと分からないほど。そのさりげなさも人気のひとつかもしれません。

    964RSは急に人気が過熱したわけではない

    日本市場はもちろん、世界的にも964RSが急にクローズアップされたような印象を受けますが、決してつい最近になって火が付いたわけではありません。新車販売時からすべての希望者に行き渡ったわけではありませんし、中古車市場でも常に高い人気を誇っていました。とはいえ、20年ほど前には、ディーラー車ですら600万円台で購入できた964RSが、新車時の車両本体価格をはるかに超える2000万円台とは、どう考えても異常事態としかいえない状況が続いています。

    画像提供:カレントライフ (撮影/江上透)

    しかも964RSでサーキット走行を楽しむユーザーが多かったため、修復歴ありの個体も多く、フルオリジナルともなれば争奪戦になるのも致し方ありません。最近では、海外のオークションでも高い価値がつくクルマとなってきました。また、手が加えられた個体が多いため、後付けのロールケージくらいであれば、もはやフルオリジナル仕様に近い個体とみなされることも珍しくなくなりました。

    海外のオークションで落札された964RS(日本円は2017年5月8日時点のもの)

    ●1992 Porsche 911 Carrera RS:PARIS 8 February 2017

    Sold for €224.000/¥27,841,000

    ●1992 Porsche 911 Carrera RS:LONDON 7 September 2016

    Sold for £168,000/¥20,881,000

    ●1992 Porsche 911 Carrera RS:PARIS 3 February 2016

    Sold for €140.000/¥17,318,000

    ●PORSCHE 911 CARRERA RS (TYPE 964) COUPÉ 1992:PARIS 5 Feb 2015

    Sold for €241,500/¥17,393,000

    ●1992 Porsche 911 Carrera RS 3.6:MONACO 10 May 2014

    Sold for €268.800/¥33,414,000

    25年経ったいまでも964RSが支持される理由を考えてみる

    964RSが発売された時点で、カレラRS2.7はすでに20年選手。SC-RSの生産台数は20台というコレクターズアイテム。964RSの数年後に限定販売された964RS3.8も、生産台数はごくわずかです。993RSはエアロパーツで武装され、ヘッドライトの形状も後のモデルに近いデザインとなり、台数限定モデルではありませんでした。

    つまり「限定車としては手に入れられる確率が高く、911本来のシルエットを残した最後のRSでありながら、軽さと硬派な仕立てが絶妙なバランスで成り立っている」非常に希有な存在といえます。それは当時のポルシェ社の経営状況や時代背景など、あらゆる要素が混ざり合って誕生したといえるのではないでしょうか。

    現行モデルにあたる991GT3RSは、単純に車両本体価格だけを見れば964RSの3倍以上。日本で991GT3RSの性能を堪能できるのは、クローズドサーキットくらいではないでしょうか。RSとしては過渡期にあったのかもしれない964RS。過渡期ゆえのアンバランスさと、時代を含めた同時に当時の絶妙なバランスが生み出したからこそ、いまも愛されているのかもしれません。

    引用:911 GT3 RS Life
    https://911gt3rslife.com/column/carerra-rs-964/

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