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消えた120億円…コロナ禍で歌舞伎界がうけた大ダメージ
■傾く人生 歌舞伎道 銀座・成田屋のトピックス
写真:現代ビジネス
海老蔵が一回も歌舞伎座に出なかった年
市川海老蔵の團十郎襲名で盛り上がるはずの一年が、予想もしなかった形で終わろうとしている。
結局、海老蔵は今年、一度も歌舞伎座の舞台には立たなかった。
1月は例年と同じ新橋演舞場で座頭公演。今年は「海老蔵として最後の演舞場公演」のはずだった。
2月は最後の地方公演で、博多座に出ていた時、政府のイベント自粛に応じて公演中止となった。3月・4月は、もともと舞台の予定はなく、5月から7月までの歌舞伎座での襲名披露公演に備えていた。
5月の襲名披露公演のチケット発売日は4月8日で、どうなるのだろうと思っていたが、その前日の7日、襲名披露公演のすべての延期が発表された。
歌舞伎座は8月に再開したが、12月までの5ヵ月、結局、海老蔵は一度も出なかった。
海老蔵は全国各地をまわる自主公演から芝居興行を再開し、11月は博多座で本公演も打てた。チケットは後半は完売していた。
2021年1月も新橋演舞場で「海老蔵歌舞伎」と銘打っての公演の予定だ。
團十郎になるまで、歌舞伎座には出ないという強い意志のようなものを感じる。
海老蔵の公演が「海老蔵歌舞伎」と銘打たれるのも初めてで、過去に、他の役者でも、例はないのではないか。「坂東玉三郎特別公演」とか「中村勘三郎奮闘公演」と銘打たれることはあったが。
8月からの変則的公演
2020年、歌舞伎がまともに公演ができたのは1月と2月だけだった。
3月と4月は予定していた配役で、客を入れないで演じたものを収録しネットで公開する試みもあったが、5月から7月までは、それもなかった。
8月からはコロナ対策をした上での公演となり、前後左右に1席ずつあける「市松模様」でのチケット販売。
従来は昼の部・夜の部、それぞれ3時間から4時間の間に、3~4演目を出していたが、4部制として、1時間前後のものを1演目ずつという形になった。
上演されるのは、全体での稽古がそれほど必要ではない、毎度おなじみの古典演目で、登場人物が少ないものという条件で選ばれており、舞踊劇が大半だった。
役者たちは1日に1演目しか出ず、他の部に出る役者とは会わないようにして、万一誰かが感染しても、俳優・スタッフ間に拡大しないようにしていた。
観客に対してもマスク着用、飲食禁止、さらに歌舞伎につきものの掛け声(大向こう)も禁止となった。
割高なチケット代
チケット代は、よく考えられている。
通常は、1等18000円、2等15000円、3階A6000円、3階B4000円。これが、1等8000円、2等5000円、3階3000円となった。3階はAとBの料金での差はなくなった。
これまでは、昼と夜に行けば倍になるので、36000円、30000円、12000円、8000円だったのが、4部とも行けば、32000円、20000円、12000円になる。
1等と2等を買っていた人には総額は安くなるが、3階Aは同額、最も安い3階Bを買っていた人にとっては、1.5倍。
さらに、いままでは昼・夜行けば、合計7~8時間で6~4演目だったのが、合計4時間4演目なので、時間あたり・演目あたりで考えると、客の立場では倍払っている感覚になる。
松竹としては、販売分が完売すれば採算がとれる金額としての価格設定だろう。完売しても赤字になる価格設定では、商売として成り立たないのだから。しかし結果としては、完売にはほど遠いから、大赤字を出しながらの興行だ。
その価格設定は売る側の理屈であり、買う側としては、内容のいい悪いとは別の話として、時間あたり単価が倍になったと感じるのだ。
それでも公演を続けるのは、公演がなければ役者や関連会社、外部スタッフの収入がなくなり、興行空白期間が長引けば長引くほど、再開が困難になるからだし、ファンもつなぎとめなければならない。
「継続は力なり」という格言があるが、逆に言えば、継続できないと無力だと思われてしまう。
客が少ないほうが拍手が響く
8月1日土曜日、歌舞伎座は再開した。この日は第一部に行ったが、劇場玄関は観客よりも「歌舞伎座再開」を報じるための報道陣のほうが多い。それくらい、閑散としていた。場内も、閑散としている。
本来の半分しか販売されない席も、その半分くらいしか埋まっていない。もともとの客席の2割から3割だ。
しかし、幕が開くと盛大な拍手となる。
皮肉にも、劇場やコンサートホールは、客がいないほうが音は響く。満席だと観客の衣服が音を吸収してしまうが、ガラガラだと、吸収されないので響くのだ。
役者のセリフも下座音楽も、よく響く。
笑う演目ではなかったこともあり、客席は静まり、拍手だけが響く。
不思議な空間だった。
そして8月5日、第三部の「舞台関係者」に微熱の症状が確認され、その日の第三部だけが休演となった。PCR検査で陰性だったので6日から再開したが、それくらい丁寧な感染防止対策だった。
以後は、休演はなかったと思うが、12月公演では、玉三郎が「濃厚接触者」となり、初日の1日から7日まで休演することになった。それでも、玉三郎が出ないだけで、公演は代役で行われた。
玉三郎が出るのは第四部の、ヤマタノオロチ伝説を題材にした舞踊劇『日本振袖始』で、岩長姫・八岐大蛇を演じる。その八岐大蛇を退治する素戔嗚尊(スサノオノミコト)を菊之助が演じることになっていた。
玉三郎が出演できないので、菊之助が岩長姫・八岐大蛇を代わり、菊之助の役だった素盞嗚尊は坂東彦三郎が代わった(9日からは玉三郎が出る)。
前年比15%の売上
写真:現代ビジネス
それにしても、客が少ない。関係者だけの総稽古を見学しているみたいな日もあった。
松竹の、2021年決算の第2四半期の累計で見ると、3月から8月の6か月の演劇部門の売り上げは20億7200万円で、前年同期の142億6500万円の14.5%でしかない。
前年の約85%以上、120億円近くの売り上げが消えたことになる。
映像部門では、3月から8月で114億2300万円の売り上げで、前年同期は291億7800万円だったので、69%は確保できている。
演劇の落ち込みの激しさがわかる。
ライバル東宝も見てみると、3月から8月の演劇部門の売り上げは20億6900万円で、前年同期の87億3000万円に対して23.7%。映像部門は379億2400万円の売り上げで、前年同期は986億8800万円だったので、その38.4%。
演劇では松竹のほうが落ち込みが激しく、映画では東宝のほうが落ち込んでいる。だが、この後、東宝は『鬼滅の刃』が大ヒットしたので、映像部門の数字はよくなるだろう。
関東大震災、第二次世界大戦以上の惨状か
写真:現代ビジネス
松竹の数字の落ち込みは、歌舞伎興行の厳しい現実を見せつける。
前述したチケットの割高感と、演目が何度も見たものなのも、客足が鈍る一因だろう。
しかし、もともと歌舞伎興行は、熱心なファンが支えていたのではなく、一生に一度は見てみたいという人や、東京への観光客(海外からも含む)、そして何よりも団体客で成り立っていた。
コロナ禍で、団体客と観光客が消えてしまったのだから、客席が埋まらないのは当然だ。
個人の客も高齢者の比率が高かった。高齢者は行きたくても、家族が外出を止めるだろうから、行けない。
団体客と観光客が戻ってくるのは、来年も後半、五輪が無事に開催できてからだろう。
松竹は120年の歴史のなかで、関東大震災、第二次世界大戦と二度の惨禍に見舞われ、多くの劇場を焼失した。
今回のコロナ禍は劇場は無事だが、5ヵ月にわたり幕を開けず、開けても半分しか売れず、それすらも完売できないという、最大の危機であろう。
200万円の持続化給付金は、ないよりもましだが、消毒液代くらいにしかならない。(松竹が申請したのかは、未確認)
私が毎月払うチケット代くらいでは焼け石の水にもならないが、それでも幕が開いているので、通っている。
観客にできることは、それだけだ。
1月の歌舞伎座は、三部制で、各二演目になる。
若手の浅草歌舞伎は早々と中止になり、大阪松竹座も玉三郎の舞踊公演で、いつもの歌舞伎の本公演はない。
したがって、歌舞伎座と、新橋演舞場の海老蔵歌舞伎と、国立劇場合わせて3劇場での初芝居となる。
無事に幕が開くことを祈る。
引用:現代ビジネス
https://news.yahoo.co.jp/articles/d02cdc58c51b362ae5b74a0623201515c577b7d5?page=1